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玉生弘昌(元会長)の読書

経済学の世界 (矢沢潔著、ONE PUBLISHNG)

 この本をセブン-イレブンで見つけた。興味を覚えて、パラパラと立ち読みしてみた。良くまとまった構成で読み易い。そして、裏表紙を見たら、700円と書いてある。あまりにも安いので、早速買った。
 著者の矢沢潔は科学の情報を上手に解説するジャーナリストである。「相対性理論と量子論」など科学の解説書を数冊著している。その彼が経済学史について書いている。読んでみると、本質を把握しながら、周辺情報についても多く付け加えていて、分かり易く解説している。
 経済学の歴史は、フランソワ・ケネーとアダム・スミスに始まり、ケインズ、シカゴ学派のハイエク、さらにはマネタリストのフリードマンと続き、近年はピケティへと連なっている。アダム・スミスは古典派の源流だが、自由市場に任せていれば、経済はすべてうまく行くと唱えていた。その自由主義経済の下の産業革命によってヨーロッパとアメリカの経済は大発展を遂げる。しかし、自由市場経済は大きな景気の変動をもたらした。20世紀初めに世界大恐慌が起こると、古典派の経済学者たちはなすすべがなかった。そこにケインズが登場し政府が介入して公共事業を進めるという政策を始めた。これによって恐慌が収束したと見られるが、反対派は第二次世界大戦が始まったためでケインズ政策の成果ではないと主張し、シカゴ学派の人達は「ケインズは死んだ」とまで言った。これが、今日の新古典派(ネオリベラリズム)の流れとなっている。
 一方、経済学史においてマルクスは欠かせない。マルクスは産業革命時代の悲惨な労働者を見て、資本主義を否定し労働者が主役の社会を作るべきだとして「資本論」を著した。マルクスの主張に基づいてソビエト連邦を初めいくつかの共産主義国家ができたのだが、結局、共産主義の計画経済はうまく行かなかった。そして、1991年にソビエト連邦が崩壊するに至る。これをもって、自由主義経済の勝利であるとの認識が広まった。それから30年、自由主義経済が正解であったかというと、格差拡大・環境悪化など不具合が目立つ様になっている。
 最後の数ページに、最近話題のMMT(Modern Monetary Theory現代貨幣論)とピケティについて経済学史上特筆すべきこととして記述されている。特に、MMTは「通貨を発行できる国家の財政は破たんすることがない」と論じていて、日本にとっては見逃せない学説である。ピケティの格差拡大の指摘も知っておくべき見解である。
 ケインズ理論は民主党のルーズベルトのニューディール政策となったのは誰でも知っている話であるが、シカゴ学派の市場原理主義が共和党のレーガンの「小さな政府」政策の元になっていることなど、アメリカの共和党と民主党の経済政策の違いと経済学について解説してくれたら、もっと面白い本になったと思われる。
 世界経済の流れを俯瞰するには、非常にいい本である。手元に置いておかれることをお勧めしたい。

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