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玉生弘昌(元会長)の読書

経済成長主義への訣別 (佐伯啓思著、新潮選書)

 現代の碩学・佐伯啓思の著作を評論するとは、まことにおこがましいことであるが、多くの人に佐伯の思想を知ってもらいたいと思い、取り上げた。
 佐伯は『さらば、資本主義』、『反・民主主義論』などを上梓し、現代社会への警鐘を鳴らし続けている。本書でも、成長を求め続けている経済社会について批判をしている。
 たしかに、最近の経済社会は変である。決算説明会や株主総会で“御社の成長戦略は何か”と、したり顔で質問する人がいるが、成長することが企業の至上命令のように思い込んでいるようだ。地球上のあらゆる企業が競争的に資源を奪い合って、生産増強をし、あくまで成長を求めると、いずれ地球上の資源は枯渇する。また、産業廃棄物の堆積は限界を超えるときが来る。
 佐伯は第1章で『スモール イズ ビューティフル』(E・F・シューマッハー)を取り上げている。この40年前の大ベストセラーに“GDPが伸び、その伸びたことは良いことなのか悪いことなのか、その伸びの利益を得たものは誰なのかにかかわらず、経済学者は善に決まっていると考える(若干省略して引用)”と書かれていることを紹介している。
 倫理学者でもあったアダム・スミスが人間の信頼を大切にしていたように、また、ケインズが個人主義的資本主義は美的でも公平でも有徳でもないと言っていたように、本来の経済学は人間味のある学問であった。しかし、近代経済学は精緻な数学を駆使し、社会を精密機械のように見なして数式で説明することを追求している。あたかも数理科学になろうとしているようである。自然な人間社会と乖離し、幸せをもたらす学問とはかけ離れてきている。そして、その精密機械の動き、すなわちそれが経済成長ということになっている。
 限られた資源をいかに適切に配分するかは経済学の命題のひとつであるが、それを可能にするのが市場原理であると考えられている。しかし、その市場原理が過度な競争によって資源の最適配分に偏りが出てきているだけでなく、格差拡大ももたらしている。
 次に、佐伯はグローバリズムも俎上にあげている。リカードの比較優位説によると、自由貿易は双方に利益をもたらすとなっている。小麦の生産に適した気候の国は小麦を輸出し、自動車の製造技術がある国は自動車を輸出すれば双方にメリットがある。この考えに基づいてTPPなど多くの取り決めが盛んである。しかし、そこには負の部分があると佐伯は指摘している。つまり、輸入をするとそれを生産していた人達が失業することになるからである。近年のグローバリズムは金融の自由化や規制緩和などの経済政策の変更も求めていて、発展途上国には不利になることが多い。
 現代社会は、あらゆる分野の開拓が進み、もう残された成長余地が少なくなっているため、そろそろ脱成長社会を模索しなければならない時期に来ているのは間違いないようである。

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