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玉生弘昌(名誉会長)の読書

中国は民主化する (長谷川慶太郎著、SBクリエイティブ)

 長谷川慶太郎氏は2019年9月に逝去されている。本書は2020年3月の出版。つまり、亡くなってからの上梓で、たぶん最後の出版である。

 長谷川は、ありえないだろうというようなことを言い出す人だった。4年前のアメリカ大統領選挙ではトランプが勝つだろうと言い、湾岸戦争では勃発した当日に「今日戦争が始まる」とテレビで発言した。2000年頃には、多くの識者が日本政府の財政は破綻し、金利が上昇してインフレになるだろうと言っていた中で、長谷川は常に日本経済の明るい未来を語っていた。そして、日本の株は上がると言っていたため、株屋の手先だと酷評する人もいたのだが、長谷川の予想の方が当たっていたように思う。
 本書「中国は民主化する」も、ありえないような表題である。
 長谷川の予測は、元日本共産党員でもあった経験から、共産主義は成り立たたないという前提の上で、中国経済は破たんするだろうというものである。計画経済による製鉄の過剰生産、失業者の増大、国営企業の大きな赤字などを指摘し、行き詰まる可能性があると述べている。また、共産党が必ずしも人民解放軍を掌握していないと分析している。2014年に習近平がインドを訪問していた時、中国軍がインド国境で発砲したこと、2015年に習近平がオバマ大統領に「南シナ海を軍事拠点化しない」と明言した直後に軍が基地の建設をしたことなどを上げている。軍が企業経営をして力をつけていることと、多数の退役軍人が不満を鬱積させていることなどから、分裂が起こり、その後に民主化するというものである。
 本書の情報ではないが、中国共産党内は民主化していると言っている元外交官がいる。環境問題や米国との関係など自由に議論がされているというのだ。若手の共産党幹部には留学経験者も多く、コミュニストで固められているわけではないということである。ということであれば、緩やかな民主化を期待したいところであるが、長谷川の予測は世界に激震をもたらすような内容である。
 第4章では北朝鮮の崩壊は近いと述べている。こちらの方はありそうな話である。もしそうなったら、大量の難民によって大混乱になる。その時、大きな役割を果たせるのは日本である。なぜなら、大量に備蓄されている余剰米があるからであると記している。
 以前の書評でも書いたが、長谷川は「デフレは平和の時の現象である」と述べている。けだし名言ではないだろうか。それ故、予てから耳を傾けるべき論者であると注目していた。このような指摘は長谷川以外からは聞いたことがなかった。ところが、ピケティの世界的ベストセラー『21世紀の資本』にある「r>gの時に貧富の格差が広がる r>gではない時は戦争の時である」という分析と一脈通じるところがあるように思える。(r:資本利益率、g:経済成長率)
 というわけで、長谷川の最後の予言には耳を傾けなければならいのではないかと思う。

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