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玉生弘昌(元会長)の読書

すかたん (朝井まかて著、講談社文庫)

 朝井まかては、2014年直木賞を受賞している。初めて候補となり、いきなり受賞した。何度も候補に挙がっても、なかなか受賞できない人がたくさんいる中、一発受賞である。それだけ、優れた作家であると言っていいだろう。
 初めて読んだ朝井まかての作品は、「阿蘭陀西鶴」であった。朝井まかてがどういう作家であるか、男か女かも知らずに読み始めたところ、文章の巧みさに引き入れられた。最初の数ページを読んでいるうちに、この作家は女性だと分かった。それだけ表現が繊細で豊かであった。それでいて、十分な下調べができている。井原西鶴がどのような人物であったか、江戸の文藝の世界がどのようなものであったかを知ることもできた。お陰で、何らかの知識を得たいという私の読書癖も満たしてくれた。
 さて、今回読んだ「すかたん」は、大阪の青物問屋の世界を描いている。
 主人公の知里(ちさと)は、江戸の商家の娘であったが、武士の家へ嫁入りしたところ、主人が藩の命で大阪に赴任することになる。ところが、その主人が病で急死してしまう。後家になってしまった知里は手習い所の女師匠として雇われて、糊口をしのいでいたが、うまく行かず解雇されてしまう。おまけに空き巣に入られ一切合切を失ったところで、河内屋の若旦那清太郎に出会う。それが縁で、女中として住み込むことになる。
 河内屋は、青物問屋の大店で周辺の同業者からも一目置かれる存在で、大旦那の惣左衛門は同業者の寄合の頭取を務めている。今で言えば、卸組合の理事長であろうか。青物問屋は農家から買い集めて野菜を小売店や料理屋に卸す商売を幕府の代官の許可を得て行っている。許可を得ている仲間が寄り集まって組合を形成している。
 本書で私の読書癖を満たしてくれたのは饅頭切手の存在であった。盆暮れの贈答の際、饅頭を持って行くのではなく、饅頭と交換できる饅頭切手を持って行くということが記されている。今で言えば、ビール券のようなものであろうか。実は、堂島の米取引でも米切手があり、切手の売り買いをする、いわば証券取引所があった。これが世界初の先物取引と言われている。饅頭切手と米切手とどちらが先であったかを知りたいところである。

 全編を通じて難波ことばの会話が面白く、リズムよく読める。若旦那の清太郎が“すかたん”で、色々と騒動を起こす。江戸ことばで言えば、すかたんとは横紙破りであろうか。
 すかたんの若旦那の起こした騒動が逆転する筋書きには少々分かりにくいところもあるが、最後はハッピーエンドとなるので、気楽にお読みになることをお勧めしたい。

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