一神教が戦争を起こす理由 (関野通夫著、ハート出版)
いわゆる一神教は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教であり、戦争が絶えない中東では、これらの宗教国が衝突している。表題を見ると、中東の戦争のことかと思ってしまうが、そうではなく、本書には古代からの歴史的背景、そして、大航海時代から始まった地球規模の覇権争い、更には、日本が戦争をするに至った経緯について書かれている。
ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の共通の経典である旧約聖書には、選ばれた民と書かれている。最初はユダヤ教のユダヤ人が選民ということだったが、旧約聖書を奉じるキリスト教もイスラム教も選民意識を持つようになり、彼らは多神教を原始的で遅れた宗教であると見なしている。
ただし、イエス・キリストは博愛主義を掲げ、排他的ではなくなっているが、一方で、他の民族も神の恩寵を受けるべきと考えてキリスト教を伝道しなければならないと思うようになったイエズス会のザビエルなどが、アジアに布教活動を始めた。キリスト教の伝道師がアジアの植民地化の道を拓いたのではないかと記述されている。
いわゆる「大航海時代」に、キリスト教国のスペイン、ポルトガルなどが世界各国に進出し、発見した国々を植民地化した。ところで、「大航海時代」とは、日本人が命名した呼称で、ヨーロッパ人は「大発見時代」と呼んでいたということを本書で初めて知った。「大発見時代」と言っていたヨーロッパ人の目線というものをこの一言で理解できた。
本書のキーワードのひとつに「マニフェスト・デスティニー」がある。神に選ばれたアメリカの白人ピューリタンは西に領土拡張を図るのは天命(デスティニー)であるという理念で、アメリカ大陸の西部開拓、さらにはハワイ、グアムの専有、フィリピンの植民地化を進める原動力となった。そして、日本にはアメリカのペリー提督の黒船がやってきたのである。
アジアの多くが欧米諸国の植民地となったのだが、本書には、なぜ日本が植民地にならなかったのかが書かれている。植民地にならなかったどころか、日本は日清戦争、日露戦争、第一次大戦に勝ち、朝鮮、満州に進出を始めた。その時にロシアに対抗するために締結をした日英同盟に基づき、日本海軍が地中海まで遠征していたことも本書で知った。その時に犠牲になった日本人の慰霊碑がマルタ島にあるそうだ。
そして20世紀になると、日本とアメリカを初めとする列強の軋轢が高まり、太平洋戦争が始まるのであるが、当時の記録として、著者の祖父・日比野正治海軍中将の手記が掲載されている。日比野氏は英語に堪能であったため、多くの情報に接していて世界情勢について詳しかった。当時の日本の有識者がどのような見解を持っていたのかがよく分かる内容である。
著者の博識に敬意を表したい。関野通夫氏は、ホンダ自動車の技術者としてフランス、イラン、アメリカに駐在して、比較文化論に目覚めたということである。アメリカのホンダ関連会社の社長を務めるほどの国際感覚に優れたビジネスマンであった著者の地球規模の観察眼は、流石である。
世界の歴史をより深く理解するにはお勧めの本である。