食の終焉~グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機~ (ポール・ロバーツ著、ダイヤモンド社)
今回はポール・ロバーツの「食の終焉~グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機~」を取りあげたい。
この本は、グローバル化が進んだ食品の流通機構には、かなり危ういことがあるというレポートである。サブタイトルに“もうひとつの危機”とあるのは、著者の前作「石油の終焉」があるからである。さらに、最新作「『衝動』に支配される世界」も経済構造に危うさを見出しレポートしているが、流通業にとっては本書「食の終焉」が参考になる。
ポール・ロバーツは、世界各国の取材を通じて、見聞きした事象の理由と影響を上手にまとめているジャーナリストで、アメリカの農業地帯を始めカナダ、南米、アフリカ、中国などで取材をして本書を書いている。
農場の取材では、どのようにして大量消費のための農産物を作り出すかを観察し、そこには大規模な薬剤の使用、遺伝子操作が行われていることをレポートしている。養鶏場では、胸の筋肉だけが発達するように交配を繰り返し、飛べもせず歩けもしないが胸だけが大きい鶏が大量に飼育されている様子を記述している。究極的に進歩した科学技術による飼育方法を紹介している。
それは、巨大化した小売業と外食産業の求めに応じて、画一的な食品を大量に調達しなければならないと考えた食品メーカーが生産者に強く求めているからである。こうした圧力の連鎖が世界規模の食糧調達・供給ネットワーク形成の原動力になり、いまや、食品材料を生産する農場や牧場は世界各国に広がっている。
地球規模の食の流通機構が形成され、この30年間で食品は十分な量が作り出され安くなったが、一方では肥満が広がり、健康問題を引き起こしている。画一的な食品を大量に売るマーケティングが展開された結果、安い食品ほどカロリーが高くなる傾向を呈していることを問題視している。
このようにして広く長く伸びたサプライチェーンにおいて安全が保たれているかというと、相当に危ないと記されている。O157による食中毒が繰り返し起こっていること、鳥インフルエンザが中国を中心として大規模に蔓延し、それが必ずしも適切に対処されていないことなどが食のネットワークを途絶えさせてしまう恐れがあることを指摘している。どうやら消費者は安全ではないようだ。
本書は「圧倒的な取材力……」と推薦されている。日本でも取材をし、合鴨農法を紹介している。合鴨農法は水田に鴨を放し雑草を食べさせるという再生可能な農法である。確かに取材力はあるようだが、本書には漁業についての記述がまったくないのは残念である。
巻末の翻訳者の解説に、ノーベル賞経済学者スティグリッツの「誰も幸せにしないグローバリゼーション」という言葉を思い起こさせると書いてある。この本もグローバル経済の問題点を理解するにはお勧めの本である。