凡人のための地域再生入門 (木下斉著、ダイヤモンド社)
非常によくできた本である!
小説の形をとっているが、随所にコラムを挟み解説をしている。コラムだけを読んでも、有益な金言集になる。著者の筆力によることはもちろんであるが、編集者も優秀なのであろう。また、劇画風の絵が差し込まれているが、その描写が実に登場人物の風貌と性格を的確に現しており劇画作家の筆力もそうとうなモノである。このような構成を作り上げた編集者のプロデュース力を評価したい。私の本もこの編集者にお世話になりたいものである。
地方都市は、過疎化と高齢化によって商店が廃業し、街はシャッター通りと化している。主人公の瀬戸は、そうした地方都市で育った。学校卒業後に上京して会社員となるのだが、父親が死に、母親も高齢となったため実家の事業を整理するために帰郷する。そこで出会った学生時代の友達と再会し様々な体験をするようになる。
地場で多くの事業を起こし成功をしている友人の一人・佐田が、親身になって世話をしてくれる。お陰で瀬戸は何とか小さな事業を成功させる。そこに、自治体から補助金による事業の誘いがある。佐田は反対を唱えるのだが、瀬戸は補助金事業に手を出す。しかし、案の定事業はうまく行かなくなる。
物語としては、ハッピーエンドになるなど結論が出るわけではないが、多くのエピソードがちりばめられていて、考えさせられることが多い。
著者の木下は多くの体験の中で、地方行政の問題点を把握していて、なかなか気づきにくい日本の社会システムの矛盾をリアルに分からせてくれる。
地域再生の美名の下に、自治体から交付金や補助金が提供されるのだが、選ばれる事業は役人目線で仕分けされる。
補助金を受け取り仕事を始めると、とたんに面倒な仕事が増える。たくさんの報告書作成、許認可手続き、などでますます忙しくなってしまう。また、成功事例の水平展開という役所の常とう手段は、成功者の障害となる。つまり、成功者と同じ事業をしようという人に補助金が与えられ、ライバルをつくってしまうからである。木下は「補助金が問題である。補助金がガンである」と明確に述べている。
結論的に、「国の予算で都市整備をすると、整備が終わると衰退がはじまり、工場誘致をした地域は企業の都合で工場閉鎖が行われると何もできない。やはり、地元の人間たちの内発的な覚悟と努力によって数十年を経て発展していくものだ。」と書かれている。
本書は役所のやり方に相当に批判的であるが、著者は政府の委員会に招かれている。本書以前の著作「地方創生大全」(東洋経済新報社)が評価されているためである。硬直化している地方行政が一向に変わらないため、政府としてもこのような核心をつく論者に変革の起爆薬になってもらいたいのだろう。つまり、政治家が改革を求めても役人が変わらないという現状を打破することを期待されて、起用されているものと思われる。
今後も、木下氏には変革の中心となって活躍してもらいたいものである。
地方再生事業に携わっている人だけでなく、お役所と関りがある人も本書を一読すると、多くのことに気が付くものと思う。