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玉生弘昌(元会長)の読書

エクサスケールの衝撃 (齊藤元章著、PHP研究所)

 エクサとは、キロ、メガ、ギガ、テラ、ペタに続く数字の単位で10の18乗のこと、エクサスケールとは大容量高速な次世代スパコンのことを表している。

 著者の齊藤元章は、高性能次世代スパコンを開発するベンチャーPEZY Computing社を起した人物である。彼が開発したCPUを搭載したスパコンは、ワット当たりの処理スピードを競う昨年のGreen 500において、何と一位・二位・三位を占めたのである。計算速度のランキングでかつて世界一を誇っていた日本のスパコン“京”は現在第4位で、中国の“天河2号”が世界一である。しかし、“京”は日本製の部品で組み立てられているのに対し“天河2号”はアメリカ製と日本製の部品でできていて、規模を大きくして性能を出している。そのため莫大な電力を喰う。一説には、原発一基分とも言われている。

 それ故、今は電気を喰わないスパコンの開発が求められている。

 齊藤は医者だったが、MRIなど高性能の診断機器に興味を持ち、IT分野に進み、ついに省エネ型のスパコンを作り上げた。しかも、彼の作ったCPU は“京”の200倍から1,000倍もの速さを出せると言うから、大いに期待が持てる。

 本書は省エネ型スパコンPEZYの開発物語ではなく、エクサスケールの大量高速情報処理が広く社会に浸透したら、何が起こるかを予想した本である。

 人体を輪切りにして診察できるMRIが、二次元から三次元になり、更に時間軸も加えた四次元になれば、多くの病気を的確に治療できると書いてある。これは実現可能性が高いと思われる。安全な生活については、人々の頭上をBeeCam(著者の命名)と言う超小型のクワッドコプターが常時飛んでいて、その人をモニターするようになるとし、これによって犯罪や事故から身を守れると書かれている。自然災害に対しては、異常気象、火山、地震、隕石の飛来などをより早く正確に予測ができ、避けることができるようになるとも記されている。

 驚いたのは、前回の書評(田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」)で紹介した「エンデの遺言」についても触れ、新しい貨幣についても論じている。科学系だけではなく相当広い知識を持って本書を執筆している様子がうかがえる。

 現在のスパコンはコストを無視して作られているため民間が自由に使える状態ではない。それが、大幅に安くなり日本中のあらゆる研究所で使えるようになると、思わぬ成果が生れることは十分あり得ることである。

 ただし、次世代スパコンで解明されたことに基づいて何らかの解決策が実施され、それが効を奏したとき、初めて本書に記されていることが実現するわけだから、全て実現するとは思えない。

 しかし、日本発の次世代スパコンが世界を変えるという夢は、これからも持ち続けて行きたいものである。

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