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玉生弘昌(名誉会長)の読書

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」 (渡邉格著、講談社)

近頃、資本主義経済には限界があり、あらたな経済体制を模索する動きが盛んである。原丈人の「公益資本主義」、藻谷浩介の「里山資本主義」など、多くの提案がある。

 本書は、資本による利益を作り出す力が強すぎて、多くの弊害が出ていると指摘。いっそお金も経済も腐らせたらどうかと言うパン屋的発想で、今日の資本主義の矛盾を述べている。

 著者の渡邉格は、父親の蔵書のマルクスを読んで、現在の資本主義の問題に気付いていく。社会に出て会社勤めを始めたところ、厳しい労働を強いられ、まるでマルクスが見た産業革命後の英国の悲惨な労働者と同じではないかと気が付く。パン職人になるため最初に勤めたパン屋で昼夜を問わず食事する時間もなく、労働を強いられる中で、マルクスの労働価値説に思いを巡らす。

 そして、著者は独立してパン屋になるのだが、資本主義社会の真っただ中に放り込まれたような状態になり苦闘する。

 通常、起業するとなると、まず資金調達に苦労する。銀行は「担保はあるのか」、「利子を払え」、「返済計画を提出しろ」など、創業の理想に水をかけるようなことを要求する。世の中のお金持ちは有り余るお金を持っているのに、なぜ、自分たちには貸してくれないのだろうか。

 お金とは何なのか、著者は「エンデの遺言」にある自然界にあるモノは老朽化し価値を減らすのに、お金は価値を減らさないどころか利子が付くことが資本主義の問題点であると言う提言に啓発される。エンデはお金も老化すべきだと言っているのだが、そこをパン屋らしく腐ると述べている。

 著者は、「今の時代は一人ひとりが自前の生産手段を取り戻すことが、有効な策になるのではないか」と述べ、パン屋やレストランなど小商いをすることが解決策の一つとしている。

 まことに私事で恐縮だが、私の息子も独立してレストランを始めた。大学を出てから思い立って事業を始めたのだが、当初の修業時代は本書にあるように搾取状態に陥り、独立したらそれを脱し、うまく回るようになった。

 個人の対策としては、小商いを始めることでいいのだろうが、社会全体の矛盾の解決のためには、貨幣を腐らせるというのが解決策の一つと考えられる。既に、ヴェルグルの労働証明書、米国イサカ市のイサカアワーなど、いわゆるコミュニティー通貨と言われる交換にしか使えない通貨の実験が行われている。著者はこれらのことも学んだ上で「腐る経済」と述べているものと思われる。

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