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玉生弘昌(名誉会長)の読書

中国4.0 暴発する中華帝国 (エドワード・ルトワック著、文春文庫)

 エドワード・ルトワックは、最近注目されている歴史学者、軍事戦略家である。「自滅する中国」、「戦争にチャンスを与えよ」などの最近の著書が広く読まれている。

 中国は鄧小平以降から国際社会に登場してきた。ルトワックは、その中国の対外政策についての変遷を「中国1.0」、「中国2.0」、「中国3.0」と段階を追って論じ、今後の望ましい政策を「中国4.0」として提言している。

 まず「中国1.0」は、平和的な台頭を始めた段階としている。GATT、WTO、IMFなどに参加し、国際社会に順応しようという姿勢が見られた時である。ただし、台湾については厳しい姿勢をとっていた。 

 2008年のリーマンショックのころから日本、フィリピン、マレーシア、ベトナム、インドと領土紛争を次々と巻き起こし始めた。この段階を「中国2.0」としている。日本に対しては尖閣の領有権を主張、また靖国問題を持ち出していた。中国は日米同盟の弱点を突こうとした。領土問題についてアメリカは中立的な立場をとるだろう、靖国問題についてもアメリカは介入してこないだろうという見通しのもとに日本に挑戦を始めた。しかし、安倍総理は一切の妥協をしなかった。

 ルトワックは、「中国2.0」の戦略は間違いであるとし、その間違いの原因は、金は力であると勘違いしたことと、現在の線形(リニア)の傾向が続きChina up US downとなり、いずれアメリカに追いつくと思ったこと、また、アメリカと二国同盟が結べると思い込んだことであるといったことを述べている。 

 「中国2.0」の戦略を進めるうち、気が付いたら中国の周辺に反中的なリーダーが次々と登場し反中同盟が形成されてしまった。安倍総理が、中国周辺の国々を回り、多くの話し合いを持ったことは記憶に新しい。なお、ルトワックは安倍総理を高く評価し、「戦争にチャンスを与えよ」では「稀代の戦略家」とまで持ち上げている。

 ルトワックは「ロシアは戦略以外はすべてダメだが、中国は戦略以外はすべてうまい」と述べ、「中国の戦略は間違っている」と書いている。ようやく、2014年になると中国は戦略の間違いに気づき、日本、インドに対する対応を緩め始めた。

 しかし、「中国3.0」で緩和されたといえども、インド、日本が警戒を緩めたわけではない。ルトワックは、今後の中国がとるべき政策として「中国4.0」を提唱している。それは、南シナ海の「九段線」の主張を引っ込め、空母の建設をやめることであるとしている。ただし、ルトワックは、これは中国にとって受け入れられない戦略であろうとも言っている。

 本書は、ルトワックが書いたものを奥山真司が翻訳したような体裁になっているが、実際は奥山が6回にわたってルトワックにインタビューをし、それをまとめたものと最終章に記されている。奥山自身も地政学者として評価されているが、非常に分かり易く日本向けに編集している。日本の対処すべき問題のうち、尖閣については、もし、尖閣が占拠された場合、アメリカ軍が即座に奪還作戦を行ってくれるとは考えない方がいい。また、世界世論に訴えても島が戻ってくるわけはない。独力で取り戻す能力を持たなければならないと書かれている。

 本書は、日本人向けにまとめられていて読み易い。ルトワックについて、更に知りたい人は「戦争にチャンスを与えよ」をお勧めしたい。

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