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玉生弘昌(元会長)の読書

爆買いの正体 (鄭世彬著、飛鳥新社)

 訪日中国人観光客の買い物が「爆買い」と言われたのは2015年である。それから少し下火になったと言われ始めた2016年にこの本が出版されている。 もう今や、電気釜や温水洗浄便座を担いでいる観光客は見かけなくなった。しかし、化粧品、日用品、クスリ、お菓子は相変わらず売れ続けるだろうと書かれている。つまり、耐久消費財は買われなくなったが、消耗消費財はまだ買われ続けているというわけである。その背景には、中国人を中心とした訪日リピーターが急速に増えていることがある。つまり、耐久消費財はもうすでに持っているからである。

 インバウンドについては、多くの調査がなされているが、中国人の富裕層を中心にリピーターが増え、5,6回、中には10回以上も来日しているという人がいることが報告されている。そして、この大半が買い物目的と言っている。このような調査が、本書に書かれていることを裏付けている。 中国国家観光局によると、一年間に海外に出かけた人は1億1千万人ということであるがその内、日本に来ている中国人は6百万人であり、まだまだ増える可能性が大きい。こうしたことを勘案して、2020年には、訪日観光客数が政府見通しの4000万人を超え、4500万人に達すると予測している人もいる。

 著者の鄭世彬は台湾出身の親日家である。日本のアニメを見て育った鄭氏は、日本語を学び、翻訳家になった。何回か訪日するうちに、日本の日用品化粧品とクスリに興味を持ち、台湾で本を著した。その本に記載された日本商品の紹介が、日本の神薬として流布し、台湾から中国本土にも広まった。それゆえ、爆買いの仕掛人と言われるようになったということである。 中国で使われている漢字はかなり省略された書体の「簡字体」と言われる文字が使われているが、台湾の漢字はあまり省略されていない「繁字体」という漢字が使われている。「簡字体」と「繁字体」はかなり違うのであるが、互いに読むことはできる。

 中国本土の人は、台湾人は世界の情報をより正確に捉えていると思っているようで、「繁字体」で書かれた台湾からの情報は信頼して受け入れるということである。そのため、鄭氏の本は信頼され広まったということである。近頃、日本企業の間でも、中国に進出するには台湾経由で行く方がよりうまく行くと言われ始めているのは、このためのようだ。

 推薦文と巻末の解説は、龍角散社長の藤井隆太氏が書いている。藤井社長は、家庭薬協会の会長を務めていた方で、業界のオピニオンリーダーである。そのほか、ユースキンの野渡良清社長、参天製薬の南里友明社長などとつながりを深め、日本の家庭薬の情報を正確につかんでいるようである。鄭氏は、これからも中華圏への情報発信者として頑張ってくれるものと思う。

 鄭氏は、本当に日本が好きなようで、次のように書いている。 「外国人観光客のための商品やサービスを作らないで欲しい。日本人が作った日本人のための商品とサービス、それが外国人にとって憧れなのである」 「日本人が日本人のために作った商品とサービス」は世界に通用しないガラパゴスだと言われることが多いのだが、鄭氏はそれがいいのだと言っている。このことばは、よくよく玩味する必要がありそうだ。

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