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玉生弘昌(名誉会長)の読書

未来の年表 (河合雅司著、講談社現代新書 )


 本書は2017年に出版され、70万部に迫るベストセラーになっている。本の内容についてはおおよその想像がつくと思い、買って読むことはしなかった。しかし、この本を読んだか?と問われることが多くなったので、読んでみることにした。やはり、高齢者比率が高まる、出産可能な女性の数が減る、火葬場が不足する、2053年には人口が1億人にまで減少するなどと書かれている。

 天邪鬼な私としては、「未来の年表」だけでなく、「過去の年表」も考えたくなる。日本の人口が1億人になったのは1966年頃である。人口がピークの1.27億人から減少に転じた2015年から見ると49年前のことである。そして、本書によると人口が減り1億人に戻ってしまうのは2053年であるということであるから、1億人から1.27億人になるのに半世紀、1.27億人から1億人になるのに半世紀弱ということになる。更に、人口が1億人に達した1966年の半世紀前の大正時代には0.5億人しかいなかった。0.5億人の人口で、日露戦争にも第1次世界戦争にも勝って世界の列強の仲間入りをしていたのである。つまり、2053年に1億人になると言っても、元に戻るに過ぎない。人口の増減では、減少の方が問題が大きいとは思うが、大正時代の0.5億人の時も昭和の1億人の時も、それなりに成り立っていたのである。

 また、水の輸入大国であるなどと言うことも記されている。水が豊富であるはずの日本が、水の大量輸入国であるというのは、バーチャルウォーターという理屈によるものである。牛肉を得るためには多量の水が使われているため、牛肉を輸入している国は大量の水を輸入していることに他ならない、というこの理屈は、日本の食料自給率は低いと主張したい人によるカロリーベースの計算のようなものである。野菜に比べて10倍もカロリーがある牛肉の輸入が多いと、自給比率は大きく下がることになってしまうという奇妙な計算である。カロリーを減らすためのダイエットをしている人がたくさんいる日本の食料自給率をカロリーベースで計算するなど意味がない。同じように、バーチャルウォーターの概念も、どれだけの意味があるのかよく分からない。どうも、危機感の煽りすぎのような気がする。

 河合氏が論じているのは日本人の人口であって、日本国の人口ではない。フランスがW杯で優勝したが、アフリカ系の選手を多く集めているため、フランス人が優勝したのではなく、フランス共和国が優勝したのである。日本国の盛衰も日本人だけで考える時代ではなくなっている。折しも、外国人観光客が急増している。2020年には4,000万人もの外国人観光客がやってくると予想されている。外国人観光客8.5人で日本人の消費者1人分の購買をするということであるから、約470万人の消費人口が増えたことに相当する。年に40万人ほどの日本人の人口減少を補って余りある数である。更に、すでに定住している外国人が約250万人もいることも考え合わせると、国内消費需要という点では、悲観することはないと言える。

 外国人観光客が増えているのは、日本の商品が高品質・多種類・安価であるからである。定住者が増えているのは、テロ、銃乱射、麻薬、幼児誘拐、交通事故などの危険が少なく治安がいい、また、医療が充実しているなどの理由である。そして、最近では観光客も定住者も、日本の伝統文化に関心を持ち、リスペクトしてくれるようになっている。中国語で日本についてのベストセラーを何冊も書いている台湾人の鄭世彬は、「外国人のためのサービスや商品を作らないでほしい。日本人のためのサービスや商品、それが外国人の憧れなのだ」と言っている。つまり、日本らしさを失わなければ、日本国は今後も健在性を保てるのである。

 本書で指摘しているような危機はあるのは確かであろうが、まだまだ日本には余裕がある。本書に書いてあるように、公共サービスを維持するための自治体の統合など、打つべき手は色々とあるものと考えられる。いずれにしても、余裕のあるうちに手を打っておくべきである。

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