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玉生弘昌(元会長)の読書

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。 (カレン・フェラン著、大和書房)

 かねがね、コンサルティング・ファーム(コンサル)のやり方に疑問を持っていた。「皆さん方の気が付かなかったことに我々は気が付いている」「蒙を啓いてやる」という態度に嫌気がさし、実際に依頼した経験はない。ただし、コンサルのトップの人達には有能な人が多く、個人的な付き合いは多い。

 コンサルの人達は、理屈を重ねて合理性を強調して、納得を得ようとする。合理的な理屈であることをアピールするために、彼らは数字を多用する。「数字はうそをつかない」と言うわけである。

 本書で面白かったのは、数値による評価項目が次々と増えて行くというところである。営業部門に売上目標を与えると、販促費を多く使い無理な売上をあげ、翌月には多くの返品が帰って来る。その結果、売上は上がっても利益が下がってしまう。そこで、利益率も目標管理に加えると、利益率の高い商品ばかり売り、顧客の満足が低下する。更に、顧客満足も評価目標にすると、今度は原価ぎりぎりの安値で売りきろうとする。

 従業員もバカではない。目標数字さえ達成すれば給料が増えるというなら、他のことをないがしろにしても決まった目標だけを上手にクリアーする。

 コンサルのお勧めで、「目標による管理」、「業績主義」の考えに基づいて従業員の業績考課管理を始めると、個人主義と部門主義が蔓延するだけでなく、組織全体の大きな目標が見失われると記載されている。管理基準に則って、各部門に数値目標を与えると、自部門の都合だけに集中し、隣接部門との連携が大きく損なわれ始める。さらに、評価される個人は決まった項目でしか評価されないことに不満を持ち、モチベーションが低下する。おまけに、考課のための書類と作業、会議が際限なく増えてしまう。そして、コンサルタントによって合理的といわれる管理手法が導入された企業は次第に活力が失われて行く、というわけである。

 優秀なコンサルタントとして活躍していた著者は、各種の経営ツールは企業の活性化をもたらさず、かえって問題を生じさせてきたと反省を述べている。

 また、翻訳者神崎朗子のあとがきが出色である。次のように書かれている。「マッキンゼーのパートナーとして活躍後、DeNAを設立し、現在は同社取締役の南場智子氏も、著書『不格好経営』で、マッキンゼー時代のクライアントにばったり会ったりすると『土下座して謝りたくなってしまう』と述べられておられるほどだから、コンサルティング業界を去ってから『申し訳なかった』という思いに駆られる元コンサルタントの方々は、ひょっとしたら意外と多いのかもしれない」  本書を読んで、“我が意を得たり”と思う経営者はたくさんいるに違いない。

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