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玉生弘昌(名誉会長)の読書

『いいね!』が社会を破壊する (楡周平著、新潮新書)

 楡周平の著作は、「ラストワンマイル」を以前当欄で紹介しているが、今回は小説ではなく、評論集である。

 楡周平は、コダック社の社員であった経験から、技術の変化で大会社があっけなく消滅してしまうことを第1章「超優良企業はなぜ潰れたのか」で記述している。一般には、富士フイルムは多角化し周辺技術をたくさん持っていたため生き残ったが、コダックはコア以外の事業をそぎ落としてしまったため生き残ることができなかったと言われている。楡周平は、コダックの株主がコア以外の事業に投資することを許さなかったからだと論じている。写真のデジタル化が急速に進んでいることは、当然コダックは分かっていて、早い時期に手を打っているが、収益性の非常に高いドル箱の「1ドルにつき70セントの利益を生み出すフィルムビジネス」から、より収益性の低い「1ドルにつき5セントの利益しか生まないデジタルビジネス」に投資をすることを、コダックの経営者はより“ゆっくり”やることを考えていたようだ。安定した配当を望んでいる大口の機関投資家は、利益率の低いビジネスに急いで投資することを望んでいなかったためである。

 前回の書評で取り上げた原丈二の「増補21世紀の国富論」に、“投資家の意向で経営をすると事業の永続性が損なわれる”と言う指摘があったが、コダックの例はまさにその通りになったわけである。

 また、楡周平は技術の進歩が職を減らすことになるのを心配している。過去に、貨物船のコンテナの開発は、非常に多くの港湾労働者の職を奪った。このような技術の進歩で、様々な開発がおこなわれる都度、便利になるのだが、仕事は徐々に減って行く。しまいには、多くのサービスが提供されても、それを一般消費者が買えないと言う状況に陥ると指摘している。

 ITの進歩やロボット化の進展によって、人びとは職を失い、収入が減少し、新しい技術によって生れたサービスを享受することができなくなるというのが、本書表題にある「『いいね!』が社会を破壊する」という論旨のようだ。

 後半で、アマゾンが買収したKivaシステムズのピッキングロボットのすごさを紹介し、アマゾンの社会的影響を独自の視点で記述している点が興味深いが、雑誌の連載記事を集めたものであるためか、少々まとまりに欠けるように思える。

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