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玉生弘昌(名誉会長)の読書

宇宙はなぜこのような宇宙なのか (青木薫著、講談社現代新書)

 著者青木薫は、エレガントな感じのする女性の理学博士であるが、非常に多くの科学文献の翻訳者であることで有名である。数学、物理、天文、医療などなど多岐にわたる専門知識を駆使し、きちんと理解して翻訳をすることを信条としているそうである。

 古代においては、地球中心に天があると考えられていたが、天文学が発達すると、太陽や月、惑星の動きがうまく説明できず、円の動きの中心がずれていると言う仮説などが唱えられてきた。それでも説明しきれずに、コペルニクスとガリレオの時代になって、天が動いているのではなく、地球も動いていると言う地動説が台頭した。

 近年、急速に発達した天文学では、宇宙は膨張していると言うことが定説になっている。遠くの天体ほど早いスピードで遠ざかっていることが観測されていることから、膨張宇宙の時間を逆回しして過去にさかのぼれば、宇宙は縮小し、しまいにはある一点にまで縮むはずである。その瞬間が宇宙誕生の時と考えられている。このように考えた人は何人かいたのであるが、中でもジョルジュ・ルメートルは、宇宙の初めは巨大な原子のようなものから始まったと考えた。後に、ビッグバンと呼ばれるこの説は、当初、ルメートルがカトリックの司祭であったこと、ビッグバンが旧約聖書の創世記を彷彿とさせたことから、極めてキリスト教的であると受け止められていた。しかし、近代の観測で宇宙は膨張していると言う証拠が揃うにつれて、ビッグバンは多くの学者に受け入れられるようになった。

 さて、コペルニクス的転回と言われるように、地球中心的概念を脱して、地球も人間も宇宙の一部にすぎず、特別な存在ではないと言う考えは、誰にも認められていることである。しかし、近年「人間原理」と呼ばれる人間中心的宇宙概念が提唱されている。自然の力として、引力、磁力、核力さらに光の速度などいわゆる物理定数は一定に定まっていて、それらが微妙にバランスしている。物理定数がわずかにでも違っていれば、今日の宇宙はあり得ない。もちろん、人間も存在しえない。自然法則や物理定数は、人間のような高度な生物を生み出すにちょうどいい構造になっている。今日、人間が宇宙の観測者として存在していることは、精妙な調整(ファイン・チューニング)の上にあるという考えである。あたかも神によってデザインされたようである。

 この「人間原理」は、コペルニクスの原理をもう一度逆転するようなものであるが、現代の宇宙物理学では、これを認める人が増えている。今日の宇宙物理学は、アインシュタイン、ガモフ、ホーキンスなど多くの学者の研究の積み重ねの上にあるので、科学的な論理に合致するものであるはずである。しかし、素人にはなかなか理解しがたい領域に入り込んでいる。

 実は、私も理解できているわけではない。なのに、書評を書くなどと言うことは、誠に僭越なことであるが、科学を突き詰めていくと、どこに行くのかを垣間見るには絶好な本であるとお勧めしたい。

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