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玉生弘昌(元会長)の読書

統計学が最強の学問である (西内啓著、ダイヤモンド社)

 難しそうな本なのに、売れているようである。昨今はビッグデータ流行りで、何らかのヒントが得られるのではないかと、手に取った人が多いのではないだろうか。

 たくさんのシステムが大規模に動き、大量のデータが貯まっている。それを上手に解析すれば、大きな発見ができるはずである。天文学や原子物理学、軍事の分野では、すでに成果が出ていると言われている。ビジネスの世界でも、大量のPOSデータや品質検査データなどを上手にマイニングすれば、思わぬ発見ができ、効果的な販売促進方法や大きな原価低減策を見出すことができるのではないかと期待されている。

 そのため、ビッグデータは、IT業界の商売のネタになっていて、売り込みが盛んである。数億円もするシステムの提案が行われることもある。うまくすれば、ビッグデータをマイニングして、数十億円ものメリットを得ることができるかもしれない。

 その可能性はないわけではないが、一回目は発見できても、次々と発見ができるのだろうか、このようなシステムを導入すべきなのだろうか、悩んでいる人がこの本を手にする。データ・サイエンティストになりたい人も惹きつけられたものと思う。

 さて、本書の中味であるが、やはりある程度の統計学の知識がある人向けの本である。たしかに、冒頭の部分でビッグデータについて記しており、“ビッグデータを解析する時に必要な統計学は、今後さらに魅力的な職業になるだろう”とも書いてある。しかし、本書の大半が調査によって得られたデータの解析手法の説明に割かれており、統計学を語る知識を得るにはよいかも知れないが、ビッグデータを前にした実務家の期待には沿えないだろう。

 では、ダメな本であるかと言うと、そんなことはない。統計学のエピソードが多数盛り込まれていて、面白く読める。その一つを紹介すると、ダーウィンの進化論が発端となって、いわゆる「優生学」が盛んになり、「優れた遺伝子を残すため、劣性遺伝子を淘汰する」という思想が流行したことがあった。特にナチスは「劣等人種」と見なした人々の虐殺まで引き起こした。これを、ダーウィンの従兄フランシス・ゴルトンが統計学的に分析し、優生学の前提となる「優れた親からは、優れた子供ができるであろう」と言う推論に対して、実際には優れた親からそうでない子ができること、また、その逆が起こる確率もかなり高いことを見つけ、それを称して「平凡への回帰」と呼んだ(統計学用語では「平均値への回帰」と呼ばれている)。このような様々なエピソードが盛り込まれていて、面白い。

 ビッグデータに悩める諸氏には、当面は高性能PCと大容量ディスクを問題意識が強い若い社員に与えておくのが良いのではないかと、アドバイスしたい。隠れた真実に気付くことができるのは日頃から問題意識を持った実務家である。日々、その社員がビッグデータを扱い、次第に腕を上げデータ・サイエンティストに育てば、多くの成果を上げてくれる可能性がある。

 マーケティング分野では専門の解析業者が、多くのID-POS情報を収集・解析し提案をしてくれる。彼らは、実務家ではないが、日々店頭で消費者行動を観察しているため、課題解決のヒントに気付くことができる。もちろん、統計学にも詳しい専門家集団である。まずは、このような会社を使ってみることをお勧めしたい。

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