原発再稼働「最後の条件」 (大前 研一著、小学館)
去る5月31日、橋下徹大阪市長が「大飯原発再稼働容認」発言をした。突然のことで、多くの人は驚いたものと思う。実は、その前日、橋下市長は大前研一氏と2時間余りじっくりと話し合ったと言うことである。大前氏の合理的で公平な説明に、橋下大阪市長は納得がいったのかもしれない。 もともと、大前氏は原発の開発技術者として日立で働いていた専門家だった。原発問題についてネット上で多くの発信をしている。合理的で冷静な判断をしている数少ない論者である。
さて、本書であるが、横長の変わったサイズの本で、パラパラとめくると専門的な図解がたくさん載っていて、人によってはここまで勉強するまでもないと思うかもしれない。確かに、かなりの技術的解説が記載されている。だが、よく読むと素人でも理解できるように書いてある。
福島第一原発、福島第二原発、女川原発、それぞれを比較し、福島第一原発の1~4号機がなぜ大きな事故に至ったかを比較分析している。結論をいうと、電源を失ったから福島第一原発の1~4号機が熱の制御ができずに、一部でメルトダウンが発生し水素爆発まで起こすことになったとしている。
つまり、地震の揺れによって事故を起こしたのではなく、電源を失ったかどうかが決定的な分岐点であったと結論付けている。福島第一原発の1~4号機につながっている非常用の発電機が津波で失われてしまった。3月12日には電源車が実に24台も駆けつけているのだが、電源盤が水没してしまったために冷却用のポンプを動かすことができなかったということである。
大飯原発については、福島第一原発の教訓を生かし、高台に非常用発電機を設置、低位にある建屋は防潮扉を設けている。更には、電源車からの電力供給が容易にできるようなコネクターを安全な個所に設けるなどの対策を講じている。その他にも考えられる対策は今後も続けなければならないと記述している。 最後の章で、当局の「組織」に問題があったと指摘している。確かに、専門知識があるとは思えない保安院と閉鎖的な原子力村の人達を見ていると、適切な管理運営がされていたとは思えなかった。 原発が稼働しているいないにかかわらず、冷やし続けなければならないという厄介な使用済み核燃料が大量に残っている。原発問題には、合理的とは言い難い感情的発言が多く見受けられるが、十分に科学的な勉強をした上で、冷静な議論をしてほしいものである。