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玉生弘昌(名誉会長)の読書

銃・病原菌・鉄 (ジャレド・ダイアモンド著、草思社)

 本書は、98年にアメリカでピュリツァー賞を受賞し、2000年に日本語版が出版され、今年、文庫として増刷されている。14年前に書かれた本だが、知的好奇心を満たしてくれ読み応えがある。

 地球上の人類が、どのように栄枯盛衰を繰り返してきたのか、また、その要因は何か。大量の事例を挙げて、論述している。

 人類は、5万年から4万年前ごろネアンデルタール人からクロマニヨン人へと代わった時期から飛躍を始める。このころの遺跡には装飾品や丁重な埋葬跡などがあり、人類らしさが見え始める。クロマニヨン人の登場で、ネアンデルタール人は数千年でいなくなってしまう。人種間の衝突があった可能性が高い。

 民族の衝突は、フン族の大移動など多くの事例があるようだが、具体的な記録があるのは1537年スペインのピサロがインカ帝国を滅ぼした事件である。たった168人のスペイン兵が数万人のインカ帝国の兵隊をせん滅する。それは、スペイン兵が馬に乗り鉄製の剣と銃を持っていたため、馬を見たこともなく鉄器も持っていないインカ兵は、なすすべもなく敗北してしまう。このことは、よく知られていることだが、更に、1835年ニュージーランドのマオリ族500人が、突然チャタム島に押しかけ、そこに住むモリオリ族をせん滅したという事件を紹介している。1835年といえば、フランス革命から50年近く経っており、欧州では近代が始っている。日本では坂本竜馬が生まれたとされる年である。トインビーもびっくり、というこの事件について本書によって初めて知った。

 他民族を圧倒するという要因として家畜、栽培農業、鉄器、さらには銃などが、様々な事例とともに挙げられている。特に、狩猟採集に比べて栽培農業は、より多くの人口を養うことができるため、大きな民族の力をもたらす。また、人口の増加によって都市ができ、人口の密集は伝染病を生じさせた。その病原菌が新世界に対して、大きな厄災をもたらす結果となった。本書によれば、アメリカ原住民の人口を減らしたのは、ヨーロッパ人による殺りく以上にヨーロッパ人がもたらした病原菌による病死が主たる原因だという。

 文字を持っていたか否かも重要な民族の能力である。さらに、印刷も然りであるが、本書で紀元前1700年の文字が刻印された“ファイストスの円盤”が紹介されている。活字状のものを粘土に押しつけて文字が刻まれている。紙ではなく粘土に刻印されたものであるが、明らかに凸版印刷の原型である。それから3000年を経てグーテンベルクの印刷術が登場している。発明ということを理解するうえでは、興味深いことである。

 進化生物学者である著者は、気候には興味があっても天変地異には関心がないのか、地震や津波の話は出てこない。

 1755年、ポルトガルに大津波が押し寄せ5万人以上が死亡したが、これをきっかけとして、ポルトガルの衰退が始まる。2010年、カリブ海の島国ハイチでは、大地震によって人口の3%(31万人)が死に、その後の伝染病の蔓延、治安の極度の悪化が進み、国家存亡の危機にある。地震の記憶が鮮明な日本人としては、著者ダイアモンドの見解を聞いてみたいところである。

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