日本中枢の崩壊 (古賀 茂明著、講談社)
本書は、経済産業省の現役官僚が官僚機構の問題点を告発した本として広く読まれている。古賀氏は日本を変えようという意欲を持った人物としての評価が高い。近頃は、橋下大阪市長に乞われて大阪維新の会の顧問になり、再び、注目されている。
日本は変わらなければならないといわれながら、旧態依然とした体制のもとで長期の停滞が続いている。その元凶は、官僚の抵抗にあると指摘する識者も多いが、本書は、その官僚機構の根深い問題点をわかりやすく解説している。
官僚は、最初に入った省庁に生涯帰属する。経済産業省に入省した人は、他省に出向することはあっても、最後は元の省に戻り、しかるべき外郭団体や管轄の企業に天下る。これゆえ、官僚は帰属する省の利益のため働き、国民をないがしろにすることになってしまう。若いうちは理想に燃えていても、次第に省益誘導体質になっていく。「若手の志を摘んでいくシステムに支配されている。私流にいわせてもらえば、『霞ヶ関は人材の墓場』という表現がぴったりだ。」など、ここまで書いて、大丈夫かなということが書かれている。
民主党政権になってから、古賀氏は画期的な国家公務員法改正に努力をするのだが、最後に民主党の選挙を意識した腰砕けによって廃案になってしまう。これらのことから、日本の官僚と政治の問題点を強く認識し、本書を始め、マスコミを通じ批判的な発信を始めた。
そして、古賀氏は経済産業省内で閑職に追いやられ、厳しい冷遇を受けることになる。私の友人が、顔見知りだった古賀氏と路上でばったり会ったので、何をしているのかと尋ねたら、プリンターを探しているのだといったそうである。なんと経済産業省内で、古賀氏に限ってプリンターを使えないようになっているのだという。Kinko’sでも探していたのだろうか、私の友人は自分の事務所に招き入れお手伝いをしたそうである。
省内での封じ込めは相当に厳しいものであったものと思われる。これに耐えてくじけない古賀氏も相当なものである。
古賀氏の官僚としての大仕事は、独禁法の改正だったそうである。改正に持ち込むまでの駆け引きが面白い。戦後の財閥解体のために持ち株会社が独禁法第9条によって禁止されているが、世界で禁止している国は日本と韓国しかなく、企業経営の自由を妨げていると目されていた。持ち株会社解禁のための独禁法改正について、御用学者の反対もあって公正取引委員会は否定的であったのを、古賀氏は、公取と条件交渉を進め、改正案を取りまとめる経緯が書かれている。この課程を見てみると、改正案はことごとく官僚の間で綱引きによって原案が固まって行く、そこには政治主導の影もない。本当に、日本は官僚によって動かされていることがよくわかる。
最後の章で、中小企業政策、農業政策とTPPに関しても、捏造に近いデータを各省庁が持ち出し、マスコミもそれに乗せられ、果てしのない議論が続くという、各省庁の主張の歪みと議論のレベルが低いことを記述している。大変に興味深い。
なるほどそうだったのかと、日本が変わることができない理由がよく分かるのだが、読後は暗澹たる気分にさせられる。 結局、古賀氏は辞めさせられるのだが、在野にあっても不屈の精神で頑張ってもらいたいものである。