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鼎談

 鼎談「ビッグデータにマッチした情報技術とは」

オンラインゲームやIoTの膨大なデータ処理をクラウドサービスで支える株式会社グルーヴノーツの最首社長、ユーザーの体験に基づく「UXデザイン」の第一人者として活躍されているソシオメディア株式会社の篠原社長をお迎えして、ビッグデータ時代を迎えた社会の中で、企業のあり方や人々の生活がどう変わっていくのかを、お聞きしました。

ゲームに学ぶシステムのあり方

田上 今回は、プラネットがお世話になっている最首さんと篠原さんにお話を伺います。きょうが初対面のお二人ですが、情報技術(IT)の最先端で活躍されている、という点は共通しています。IoT(“Internet of Things”の略語、「モノのインターネット」の意味)や、UX(“User Experience” の略語、「ユーザー体験」の意味)デザインなど、新たな潮流が次々と現れているITのこれからについて、わかりやすくお話しいただこうと思います。

最首 当社は福岡の会社で、元々はオンラインゲームを支える裏方の仕事をしていました。たくさんのパソコンやスマートフォン、携帯電話からのアクセスが集中するオンラインゲームを、利用者が快適に操作するためには、膨大なデータを迅速に処理することが必要です。そのために当社は、インターネットにつながっている世界各地のコンピュータにデータを分散させ、効率よく処理できるクラウド型の仕組みをつくったのですが、その構造がIoTで求められるものに近かったため、現在はIoT関連の仕事が増えてきている状況です。
 スマホやタブレットに始まり、自動車や家電など、あらゆるものがインターネットにつながって、情報をやり取りできるようになるのがIoTです。そこから集められる情報を分析することで、人々の生活を可視化し、より快適な生活や楽しさを提供するためのお手伝いをしています。

田上 篠原さんはUXデザインがご専門ですが、そもそも UXデザインとは、どのようなものでしょうか。

篠原 UXデザインはユーザー体験のことで、昨今では、デザイン思考、サービスデザイン、顧客開発など、いろいろな言葉で語られますが、その要点は、使っている人を起点にして製品やサービス、システムを見直していこうというものです。単なる画面デザインを指すのではなく、もっと深いところまで含めて全体をユーザー起点でデザインするという考え方です。今、シリコンバレーなどの先端企業はUXデザインを積極的に取り入れており、社内にUX専門の組織をつくるところも増えています。
 2000年代に入ってから、インターネットの技術を活用した、生活者が使いやすいシステムやサービスがどんどん発展してきました。そしてIoTが注目され出した2015年前後から、ようやくBtoBの世界でもユーザー起点のデザインが求められるようになってきた、という潮流があります。

田上 確かに、企業が業務で使うシステムやWebのデザインは、10年くらい前からあまり進歩していない感があります。一方、生活者向けのサービスはどんどん進化していて、中でもオンラインゲームは、その最先端にあるといえるのではないでしょうか。

最首 一般的なコンピューターシステムとオンラインゲームが大きく異なるのは、やはり利用者の数でしょう。人気のゲームには百万人規模のユーザーが毎日アクセスし、ピーク時には1秒間に数万件ものアクセスになります。ただ、ゲームの本質はこの点にあるのではない、と私は思っています。ゲーム業界がシステムに最も求めているのは、生産性や性能の高さではなく、楽しさなのです。その機能を入れることでゲームが面白くなるか、そのために何ができるかを徹底的に考えている。これが、ゲーム業界とほかの業界との大きな違いだと思います。

田上 ゲームの世界では、速度や安定性は必要条件であっても、十分条件ではないのですね。ユーザーのモチベーションが上がる工夫や動き、そして何よりも、ユーザーが楽しいと感じることが絶対条件だと。一般のシステムやサービスもそれ自体の機能だけでなく、利用するユーザーが本当は何を必要としているかを、もっと考えたほうがよさそうです。

最首 東京と福岡を行き来して感じるのですが、東京の人はプロの企業人であろうと努力し、そのプロ意識が行き過ぎて、常に企業目線になっているケースが多い。一方、福岡では、企業人としてプロである以前に、地域の生活者としての意識が非常に強い気がします。私は、大切なのは両者のバランスだと思います。自社の製品やサービスのことだけ考えるのではなく、周囲を一歩引いて見ると、そこに物を買っている人がいて、生活している人がいる。その中で自分たちは何に貢献しているのかを考えるべき時代になっている気がします。

「ペルソナ」はリアルなユーザーの代弁者

田上 ビッグデータが注目され出した頃は、大量のデータを集めて分析すれば何でもできるかのような雰囲気がありました。しかし、実際にはユーザーの操作ログだけ見ていても、ユーザーが本当は何をしたいのかはわからない。そこで最近アメリカでは、データ分析だけでなく、ユーザー一人一人を観察して、それをデザインに取り込もうというUXの手法が主流になってきている、と聞きました。

最首 英裕(さいしゅ えいひろ)

株式会社グルーヴノーツ 代表取締役社長

最首 英裕(さいしゅ えいひろ)さん

1961年生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒業後、株式会社エイ・エス・ティ(現 日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社)入社。米国ベンチャー企業の日本代表を経て、1998年株式会社イーシー・ワンを設立して代表取締役社長。2012年株式会社グルーヴノーツを設立し、代表取締役社長に就任。趣味はカイトサーフィン。
(株式会社グルーヴノーツは、2013年からクラウド環境でのビッグデータ処理でプラネットをサポート。2015年にプラネットが出資。) 

篠原 そのとおりです。ユーザーに起点を置きながら、かつそのユーザーの行動に対して徹底的にデータをとって、リアルなユーザーと、足跡としてのデータを分析することは、どちらも大切だというのが今のシリコンバレーのとらえ方です。
 UXを実践する上でとても重要な、「ペルソナ」という手法があります。実際のユーザーをいくつかのパターンで絞り込んで、具体的な一つの仮想の人物像を描くやり方です。こうして作り上げたペルソナをもとに仮説を立て、さらにそこに大量のデータを紐づけて分析する。データ分析の進化と、リアルなユーザーを科学することがうまく一致してきているということです。これらのユーザー分析とデータ分析の手法を組み合わせ、どんなサービスを行なう時には、どんなデータを取ればいいか、どんな技法を使えばいいかということが、だいぶ整理されてきています。

最首 当社にもUXチームがありますが、私が個人的に手本にしているのはグーグルです。グーグルでは、「こんなサービスがあったら面白いよね」というアプローチはしません。最初はペルソナから徹底的に考えるそうです。たとえば「17歳の女子高生。彼氏がいて、両親はどういう仕事をしていて、どこに住んでいて、彼女にはこんな悩みがある」といったことを詳細に決めていく。グーグルには大量のデータがあるから、いろんなことが見えると言われますが、そう聞くと漠然としたマスイメージを先行させている感じがしますが、そうではなくて非常に具体的なイメージを先行させています。つまり、できるだけ具体的な利用者像。つまりペルソナ設定をしていくのですが、そこにリアリティを持たせるためにもデータを活用していく。データによってペルソナの精度を上げて、その人の悩みを解決するためにサービスを考えていく。ゲームも非常に近くて、想定するユーザーがいて、そのユーザーが何を望んでいるのか徹底的に分析しています。

篠原 ペルソナをつくる際は、つくり手だけではなく利害関係者 も一緒に加わって、かなり期間をかけてリアルなユーザーとしてつくりあげます。そこに嘘があってはいけません。たとえば提供する側の個人性が出てきたりしたら、それは間違っているのです。
 日本の企業はよく、常にユーザーのことを考えているといいますが、それは都合のいいユーザーであることが多い。「ゴムまりのようなユーザー」といって、企業の意向に合わせてそのつど都合よくぐにゃぐにゃ顔が変わるのです。そうではなくて、ある属性をもつ具体的な人物像として、ペルソナを設定しなければなりません。もし製品をつくる方向性がAとBで分かれた時は、立場の強い人の意見に押されるのでなく、ペルソナの意見によって最後の判断を行なうのです。

田上 ペルソナは、リアルなユーザーが求めるものを語る代弁者なのですね。

IoTは快適さを測るセンサーになる

最首 普通、物をつくっても売った後にユーザーがどう思っているかは、わかりませんよね。でもゲームの場合、ネットでの噂や評判が人気を左右するため、リリースした直後から反応がわかるのです。だから本当の生の声を短い頻度で分析して、何か問題があればすぐに直すという、凄(すさ)まじい世界です。
 グーグルやアップルがやっていることは、程度の差はありますが、こうしたゲーム業界のやり方に近いと思います。ユーザーが求めることを感知して、どんどん改善していった結果、今のサービスがあるわけです。自動車業界では今、米国のテスラモーターズが近いのではないでしょうか。現在販売されているモデルSのソフトウェアを更新してゆけば、自動運転車になるというのですから画期的です。

篠原 カタチとしての製品自体はそのままで、ソフトウェアを変更することでいろいろなサービスとしてのモノを変えられるということですね。

最首 IoTは、センサー機器の情報が集まってくることがすごいわけではありません。ちょっと観点が違うかもしれませんが、例えば車に乗った人が快適に感じているどうかを測る仕組みを入れられる可能性がある、ということが重要なのです。もし利用者が快適でなければ、ソフトウェアを更新して、利用者をドンドン快適にしていく。何が快適かというのは、とてもむずかしいことですが、金融商品でも店舗でも、少しずつ世の中はそういう方向に近づいていると思います。小売業におけるオムニチャネルもそうです。多チャンネル化していく中で、これからはユーザーに対する打ち出しを、もっとユーザーが望む方向に変えていく仕組みができるようになるのではないでしょうか。

田上 IoTは快適さを測るセンサーになるべきだということですね。

最首 ゲーム業界の仕事をして一番感じたのは、人はエンターテイメントにお金を払うということです。効率が良いとか、機能が高いものにはお金を出さない人でも、ゲームの中で防御力を高めるアイテムがあれば、喜んで買うのです。エンターテイメントの力は凄い、と感じます。ですから、楽しいかどうかという視点で、ユーザーに対する認知を深めていくことは、とても重要な気がします。

企業は新しい潮流にどう向き合うか

篠原 従来、業務で使うシステムは使いにくくても、仕事ですから、慣れるしかありませんでした。でもスマホやゲームに慣れた今の若手の人たちは、もっと優れたユーザーインターフェースがあることを知っていますので、社内システムやBtoBのシステムに対しても、これではダメだと声を上げるようになってきています。

篠原 稔和(しのはら としかず)

ソシオメディア株式会社 代表取締役

篠原 稔和(しのはら としかず)さん

1964年生まれ。IT関連マーケティング、ウェブサイト構築に関わる調査・ 研究・コンサルティング活動を経て、2001年ソシオメディア株式会社を設立。2014年から、UXを企業戦略の中核とするための道筋を探る「UX戦略フォーラム」を主催。多摩美術大学、武蔵野美術大学、早稲田大学、日本工業大学などの非常勤講師を歴任。著書・監訳書など多数。趣味はピアノ演奏。
(ソシオメディア株式会社は2013年の「シングルポータル」リニューアル時に、ユーザーインターフェース(UI)をデザイン。また、UI/UXの導入をサポート。)

最首 そもそも、一人の人間とコンピュータが向き合うのが、古臭くなってきているのだと思います。本来、仕事というものは、取引先やプロジェクトメンバーとの密なコミュニケーションなくして成立しないのに、今の企業システムは、一人で画面に向かって作業しなければいけない。そこが現実と合っていない気がしますね。

田上 たしかに、決まった場所で決まった画面の前に座ってやらないといけない仕事って、本当にどれだけあるのでしょうか。出先や移動中、あるいは家でできることはそこで終わらせて、その分たくさんの人に会ったり、自分の時間を持ったりすることのほうが大切な気がします。

最首 一般に企業が利益を追求すればするほど、そこには搾取があって、社会の幸福と相反していくイメージがあります。ですが実際には、ほとんどの企業は、社会の利益と会社の利益は共通でなければならないと考えています。もっと言うなら、世の中の多くの人が望むことと、会社でやることがうまく整合できる企業が、成功していくと思うのです。そのためには社内でパソコンに向かっているより、社会に出て行ったほうがいいのです。
 ただ、社会と言っても漠然としていますので、やはりペルソナが重要です。たとえば想定する利用者が働く女性だとしたら、働く女性を細分化して、その人たちが抱えている一つひとつの課題と自社の商品との間の余白をどう埋めるか考える。そこから大きなビジネスが生まれます。人と人との関わりがますます重要になってきて、コンピューターシステムに求められる本質的なことが、決定的に今、変わっているのだと思います。

田上 いくら人に会うといっても、ユーザー全員に会いに行くわけにはいきませんから、やはりデータの活用はこれからの企業にとっては重要ですね。

最首 そのためには、膨大なデータをいかに高速に、安価に、簡単に分析するかという課題があります。さらに今は、大量のデータを単に統計解析的に分析するだけではない方向に向かっています。たとえば店舗に入ってきた客は、どのような服装で表情はどうか。駐車場に止まった車は軽トラック、それとも高級セダンなのか。機械学習の登場によって、そうした情報をコンピュータに判断させ、データとして打ち込むことができるようになってきている点が、大きな変化だと思います。

田上 IoTを取り込むことで、今までとは全く違う観点から事業予測が出来てくるということですね。とても興味深いですが、普通の会社にはちょっとハードルが高くて難しい気がします。

最首 今までのシステムとは、あまりに次元が異なりますので、一気に取り組むのは難しいでしょう。長期の視点で戦略を立て、まずは目標を決めてプロトタイプをつくってみる、あるいはディスカッションを始めることでもいいと思うのです。そうやって何か少しでも始めていかないと、前には進めません。

田上 現場が新たな取り組みを提案しても、積極的に動けない会社は多いと思います。何か良い方法はないでしょうか。

最首 人工知能とかビッグデータは難しくて、ITの専門家がいないとよくわからないというのが問題です。そこで当社では、わかりやすくする道具立てを用意しようとしています。要するにITの専門家がいなくても、経営者の問題意識に近い部署の人がITに取り組めるようにするのです。それはコモディティ化という言葉と似ています。

篠原 多くの企業は、新たな取り組みをしたくても、既存システムを簡単には変えられない、というジレンマをお持ちです。そのため、実験的なプロジェクトを立ち上げたり、まずは既存システムのごく一部で試して、そこから広げたり、というやり方を採用している企業もあります。

最首 この間、ある小売業のシステムを全面的に見直したいという相談を受けました。一気に変えるのは難しいので、まず、買掛金管理をどう変革できるかヒアリングしたのです。あるクラウドサービスを使って、月に1回まとめて行っていた買掛金の処理をどのくらい簡素化できるか調べてみたところ、クエリーが10程度、わずか数個の簡単なフローを記述すれば済んでしまうことがわかりました。
 基幹システムは大きく、複雑だと思われていますが、過去の経緯から複雑な構造を選んでいるだけで、過去に縛られない新しい技術を使うと実はすごくシンプルに置き換わることが多々あります。企業の考え方がこのように脱皮できたら、いろいろなチャレンジができる余地が出てくるのではないでしょうか。

企業にとって、ITは道具である

田上 基幹システムは安全、安心であることが最優先されます。新しい技術は概して、クラウドの中でデータ処理を行っています。理屈はともかく、本当にクラウドは安心して使えるのかと不安に感じている企業はとても多いのではないでしょうか。

田上 正勝(たがみ まさかつ)

株式会社プラネット 代表取締役社長

田上 正勝(たがみ まさかつ)

1964年生まれ。関西大学法学部卒業後、システムコンサルティング企業を経て、1993年株式会社プラネット入社。主にサービスの企画開発を担当。2012年10月より現職。趣味はゴルフ。 

最首 安全ということを、もう少し正確に考えなければいけません。そもそも自分の会社にサーバーが置いてあることが本当に安全なのでしょうか。情報漏洩の犯罪のほとんどは内部犯行です。物理サーバーが特定されている時点でとても脆弱なわけです。また、オンラインでの攻撃に対し、全世界でサービスを提供しているクラウドベンダー以上に強固な対策を取っているかというと、おそらく、それも違うと思うのです。つまりクラウドが安全でないという不安には、ほとんどの場合論理的な根拠がないと思います。
 クラウドの本当のメリットは何でしょう。グーグルは数十億人がアクセスしてもダウンしない高速な仕組みを持っています。彼らは自前でハードウェアをつくって、独自のネットワークを構築し、圧倒的な速度が出るようにしているのです。普通の会社が普通のコンピュータを使ってつくったシステムとは、手作りの台車とF1カーくらいの差があります。これから先、一般の企業がF1カーをつくることに資産を注ぐのは無駄なことです。それよりも、膨大な資金と優秀な人材を大量に投入してつくられたこれらのサービスを、どう選んでどのように使うかを考えた方が賢明です。企業にとってITは、あくまで道具であることを忘れてはいけません。

篠原 私もやはり、ITは道具に戻っていくと思います。お箸で何かを食べている時、通常なら、お箸のことは意識しません。おいしいとかまずいとか、食べ物のことを考えるでしょう。ところが、ひとたび箸が折れると、急に箸が気になり始めます。今はこの箸がずっと折れている状態で、コンピュータのことばかり考えて、コミュニケーションや社会、あるいは目的が二の次になっています。折れにくい箸が手に入れば、本当に大事なことに意識が自然と向いていくと思います。

田上 お二人のおっしゃる通りだと思います。プラネットも新しい道具を試したくて、二年かけてクラウドでのビッグデータ処理を検討し、最首さんにお願いして、いくつかのプロトタイプを構築したところです。既存のシステムには手をつけずに、新しいシステムにデータをコピーすることで早く安く用意し、実際に動かして評価を行っています。安全性を確認できたら乗り換えていこうと考えています。

最首 これまでのシステムのつくり方やスピードとは圧倒的な違いがあって、驚かれたと思います。

田上 新しいことにチャレンジするのは勇気が要りますが、誰かがやらないと始まりません。プラネットの取り組みが皆様の参考になれば、という思いです。

成熟した社会は、生活がエンターテイメント化する

篠原 IoTが正しく発展するためには、それを使う側の使いこなす能力も上げていかなければいけません。新しい道具を使ってほかの人たちとつながるために、我々もコミュニケーションに対して意図的になることが求められるのです。
 たとえば80、90年代には、「今朝、新聞であれ読んだか」と上司が部下に呼びかけることで、会話が成立しました。ところが2000年代後半からは、「あれ読んだか」との問いに対し、「あぁ、それは昨日ネットで流れていましたけど、今はもう話題じゃないですよ」と若手が返して終わりです。若い社員は一日前に、仲間たちとその話題について、もう話し終わっているのです。その中にビジネスにとって大事な情報があったとしても、上司の見えないところで起きて、終わっているわけです。リーダーは、チームのメンバーがどんな情報に触れ、どんなコミュニケーション手段を使っているかに目を向け、必要なら、そこに飛び込むことも大事な仕事だと思います。

最首 その上司が、若い社員のコミュニティに入れていないことが問題ですね。今は非常にプライベートなコミュニケーションの手段が発達しています。そこでは「俺は上司だから」という言い訳はもはや通用せず、一人の人間として魅力ある発言をしなければいけない。いわば、人間力を試される世の中かもしれません。それは、企業が個人に対してどう接するか、という話にもすごく近い気がします。

田上 新しい道具が出てきたら、何ができるかを学び、従来のやり方も変えなければいけませんね。 変化ということでは、これからの10年で、人々の暮らしはどう変わっていくと思いますか。

最首 自動車が典型的だと思いますが、おそらく自動運転の車が街を走っているでしょう。そうなると車の性能より、車内の空間が重要になってきます。その結果、自動車産業がエンターテイメント化していく気がします。なぜそれを使うのか、だって楽しいから、という論理です。成熟していない社会は効率を求めますが、成熟した社会では、その先の楽しさやエンターテイメントが求められます。その側面から言えば、テクノロジーの進化は確かに世の中に幸せをもたらしていると思います。

田上 仕事をしている人たちも、楽しく仕事をしたいですね。

篠原 働き方もずいぶん変わるでしょう。今や、大企業に就職すれば一生安泰、と考える人は減っています。人々は、生活者視点で自分が何に貢献できるかを考え、仕事を通してそれをいかに実現するかを重視するようになってきています。先日、超優良企業のエリートだった人が、今の仕事をもっと社会に役立つビジネスにしたいと言って会社を辞め、ベンチャーを立ち上げました。一昔前にはあり得ない選択肢です。働き方そのものがユーザー起点になっていくということです。そして、そうした志のある優秀な社員をつなぎとめるために、会社側もより魅力的に変わっていかなければなりません。

最首 当社は、4月からテックパークという施設の運営を始めます。小学生向けの学童保育と、ものづくりスペースを併設した、壮大なテクノロジーの遊び場です。この件を発表したら、入社希望者が急に増えて、社員もモチベーションが上がっています。UXチームでは今、ここに集まる子どもたちのお母さんをペルソナとして、新しいサービスをつくろうとしています。社会との接点が必要なら、企業が具体的にそういう場所をつくって始めてみるのもいいのではないかと思います。

篠原 そこにUXチームが関与されるというのは、素晴らしいですね。最適な人選だと思います。

田上 志のある人が世の中を変える、という事実は歴史も証明しています。これからの10年で、わくわくする職場を増やしていきたいですね。今日はとても中身の濃いお話を伺うことができました。ありがとうございました。

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